こんにちは!ぼくは三浦半島のダイビングショップ 三浦 海の学校でダイビングインストラクターをやっています。今日は、海の中の「宝石」とも呼ばれる美しい生き物「シロウミウシ」について書きたいと思います。写真を見ていただければわかるように、白い体に黒い点々、そして鮮やかな黄色の縁取りがとても美しい生き物です。小さいながらも、その姿は海の中で一際目を引きます。
牛柄の小さな海の宝石
海の中を潜っていると、時々「あっ!」と思わず声が出そうになるほど美しい生き物に出会うことがあります。シロウミウシはまさにそんな存在です。名前の通り白い体をしていますが、単なる白ではなく「白磁色」と表現されるほど上品な白さなんです。そこに不規則に散らばる黒い斑点と、体の縁を彩る鮮やかな黄色のラインが特徴的です。
「まるで牛柄のようだね」とよく言われます。確かに白地に黒い斑点という組み合わせは、ホルスタイン種の牛を小さくしたような印象です。でも牛と違って、体の縁や触角、そして背中後方の「鰓(えら)」と呼ばれる部分が黄色く縁取られているのが特徴的。この黄色のアクセントが、シロウミウシの魅力をさらに引き立てています。
大きさは通常3cm程度と小さく、海の中でもよく目を凝らさないと見つけられないことも。ぼくが初めてシロウミウシを見つけたときは、「こんな小さくて可愛い生き物が海の中にいるんだ!」と感動したことを覚えています。
意外と身近な存在
シロウミウシは日本各地の沿岸で見られる、比較的ポピュラーなウミウシです。浅い岩礁域に生息していて、特に水深1〜2m付近でよく見つかります。三浦半島の海でも1年を通して観察できる「通年種」なんです。
ぼくたちのショップがある三浦半島は、東京からも近く、ダイビングスポットとして人気がありますが、この海域はウミウシの宝庫としても知られています。特に春から初夏にかけては、多くの種類のウミウシが見られるシーズンで、シロウミウシもよく見かけます。
意外かもしれませんが、潮だまりなどでも見つかることがあるので、スキューバダイビングをしなくても、運が良ければ出会えるかもしれません。ただし、生き物をむやみに触ったり持ち帰ったりするのはやめましょうね。観察だけにとどめて、自然のままの姿を楽しむことが大切です。
不思議な生態と食性
見た目の美しさもさることながら、シロウミウシの生態にも興味深いところがたくさんあります。
まず、シロウミウシの食事は主にカイメンです。カイメンというと、あまり馴染みがないかもしれませんが、海の中にある多孔質の固着動物で、一見するとただの塊のように見えます。シロウミウシは特にクロイソカイメンやナミイソカイメンを好んで食べることが知られています。
面白いのは、カイメンには多くの場合、捕食者を寄せ付けないような化学物質(防御物質)が含まれているのに、シロウミウシはそれをものともせずに食べられるということです。むしろ、そのカイメン由来の防御物質を自分の体内に蓄積して、自分自身の防御に利用していると考えられています。
つまり「食べ物から武器を盗む」という、とても賢い生存戦略を持っているんですね。地味に見えるカイメンを食べることで、シロウミウシは華やかでカラフルな姿を維持しているという、なんとも面白い関係性があるんです。
水族館などで飼育している様子を観察すると、シロウミウシたちがカイメンに群がって食べている姿を見ることができます。普段はのんびり移動しているシロウミウシも、カイメンを見つけると急に活発になって食事を始めるんです。
シロウミウシとウスイロウミウシの見分け方
シロウミウシと見た目がよく似た種類に「ウスイロウミウシ」というウミウシがいます。パッと見は非常によく似ていて、素人目にはなかなか区別がつきません。
見分けるポイントは、黄色の縁取りの内側に青い縁取りがあるかどうかです。シロウミウシは黄色の縁取りの内側は白色の色帯になっていますが、ウスイロウミウシの場合は青い縁取りが入ります。また、ウスイロウミウシの方がシロウミウシよりも小柄で、体型も少し薄いのが特徴です。
ダイバーの中には、「どちらのウミウシかを見分けるのが楽しい」という方もいるほど、微妙な違いを見つける楽しさがあります。ぼくも最初は区別がつかなかったんですが、数多く観察していると少しずつ違いがわかるようになってきました。
三浦半島の海でシロウミウシに出会うには
三浦半島の海でシロウミウシに出会うには、どうしたらいいでしょうか?
シロウミウシは通年見られますが、特に春から夏にかけてはウミウシ全般が増えるシーズンなので、この時期がおすすめです。ダイビングポイントでは、浅い岩礁域を丁寧に探してみましょう。特にカイメンが付着している岩場周辺はチェックする価値があります。
また、潮だまりでも見つかることがあるので、干潮時に磯遊びをしながら探してみるのも面白いかもしれません。ただし、海の生き物を観察する際には、むやみに触ったり、環境を壊したりしないように心がけましょう。
体験ダイビングでも十分に観察できますし、ダイビングライセンスを持っている方は、ガイド付きのファンダイビングでインストラクターに「シロウミウシを見たい!」と伝えれば、見つけてくれる可能性が高まります。ぼくたちガイドは、お客さんが何を見たいかを知っておくと、より集中して探すことができるんです。
シロウミウシと海の環境
シロウミウシのような美しい生き物を観察していると、海の多様性や豊かさを実感します。しかし、近年は海洋環境の悪化が進み、多くの海洋生物の生息環境が脅かされています。
シロウミウシにとっても、海水温の上昇や海の酸性化、プラスチックごみによる汚染などは大きな脅威です。特に彼らの主食であるカイメンの生息環境が悪化すれば、シロウミウシの個体数にも影響が出てくるでしょう。
とはいえ、悲観的になるだけでは何も変わりません。私たちができることは、海の環境を知り、守る意識を持つことです。ダイビングや磯遊びを通じて海の生き物に親しみ、その素晴らしさを多くの人に伝えていくことも、大切な活動だと思っています。
というわけで、次回三浦半島の海に潜る機会があれば、ぜひシロウミウシを探してみてください。白い体に黒い点々、黄色の縁取りという特徴を覚えておけば、見つけやすいはずです。そして、その小さな体に秘められた驚くべき生態や美しさに、きっと魅了されることでしょう。
海の中には、まだまだ知られていない不思議がたくさん隠れています。ぼくたちと一緒に、そんな神秘的な海の世界を探検してみませんか?
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