アオリイカの卵と親イカに会えた城ヶ島|8月のファンダイビングの記録
三浦・城ヶ島で2ビーチのファンダイビング。水温23度、透明度6mの海で、アオリイカの卵と親イカ2個体をじっくり観察できた一日を、神奈川のダイビングインストラクターがレポートします。
こんにちは、三浦 海の学校の吉田です。今日は城ヶ島で2ビーチのファンダイビング。マンツーマンで好きなだけ留まれた分、アオリイカの卵と親イカ2個体をじっくり観察できた一日でした。夏の終わりの城ヶ島で、これはかなり嬉しい出会いです。
この時季の三浦の海は水がぐっと暖かくなって、ウエットスーツでもまったく寒さを感じません。しかもマンツーマンなので、誰かを待つことも急がせることもなく、ひとつの生き物の前に好きなだけ留まっていられる。それが、そのまま今日いちばんの収穫につながりました。
8月半ばの城ヶ島は水温23度・透明度6m
今日の水温は23度、透明度は6mでした。
三浦の夏の海は、日によって透明度がずいぶん変わります。台風のうねりが残っていれば白く濁りますし、プランクトンが増える時季には緑がかった水になる。今日の6mというのは、正直に言えば「絶好調」ではありません。遠くの地形を眺めて楽しむような日ではなかった、というのが本当のところです。
ただ、透明度と楽しさは必ずしも比例しません。むしろ透明度がほどほどの日ほど、僕は生物観察に切り替えます。遠くが見えないぶん、視線が手元に集まる。岩の隙間、砂地のわずかな凹み、イソギンチャクの触手の奥。そういう「近い場所」を丁寧に見ていくと、透明度20mの日には素通りしていたものが次々に見つかります。今日はまさにそのパターンでした。
水温23度は、この時季としては標準的です。3ミリのウエットスーツで2本潜っても、体が芯から冷えるようなことはありませんでした。むしろ陸の暑さから逃げ込むのにちょうどいい水温で、エキジットしたあとに「もう一本行きたい」と思えるくらいの快適さです。

経験本数50本のリピーターさんとマンツーマン
今日ご一緒したのは、月に1回のペースで通ってくださっているリピーターの方です。経験本数はいつのまにか50本を超えました。
50本というのは、ダイバーにとってひとつの節目だと思っています。最初のころは、耳抜き、呼吸、フィンキック、エア残圧、と気にすることが多すぎて、「海を見る余裕」がありません。それが本数を重ねるうちに、器材の扱いが体に染み込んで、意識のリソースが空いてくる。空いた分がそのまま「周りを見る力」に変わっていきます。
この方の場合、特に浮力コントロールが目に見えて上手くなりました。今日は砂地の上でホバリングしながら被写体を眺める場面が何度もあったのですが、砂を巻き上げることがほとんどない。呼吸だけで数センチの高さを調整して、じっと止まっていられる。これができるようになると、水中で見られるものの質が変わります。
砂を巻き上げないダイバーには、生き物が逃げません。ゆっくり近づいて、静かに止まって、ただ眺める。この距離感を保てるかどうかが、生物観察の成否をほぼ決めてしまいます。今日アオリイカにあれだけ寄れたのも、二人とも余計な動きをしなかったからです。
そしてマンツーマンだったことも大きい。グループだと、どうしても「全員がこの生き物を見終わるまで」という進行になります。今日は二人だけなので、面白ければ何分でも留まれるし、興味がなければ次に進める。ゆっくり生物観察をするという意味では、これ以上ない条件でした。
アオリイカの卵と親イカ、砂地のミノカサゴ
アオリイカの卵と、親イカ2個体
今日いちばん嬉しかったのがこれです。
まず卵。岩の下の暗がりに、白い房が何本もぶら下がっていました。アオリイカの卵は、細長い袋(卵嚢)の中に卵がいくつか入っていて、それが束になって付着しています。透けて見える一粒一粒が、そのまま次の世代です。
アオリイカの産卵期は春から夏にかけてがピークで、8月半ばというのは終盤にあたります。だから今日は期待していませんでした。それが残っていた。夏の終わりに産みつけられた卵は、これから水温が高いうちに孵化していきます。
そして、その近くで親イカを2個体。中層を、こちらの様子をうかがうようにゆっくり漂っていました。アオリイカは警戒心が強くて、雑に近づくと一瞬で間合いを取られます。今日は二人ともホバリングを保ったまま、じりじりと距離を詰めて、しばらく一緒の水中にいることができました。体色が微妙に変わっていくのが見えるくらいの距離です。
卵と親を同じダイビングで見られたのは、ちょっとした偶然の重なりです。こういう日があるから、同じポイントに何度も通う意味があるのだと思います。
ミノカサゴの仲間
砂地の上で、あの見事なヒレを広げて静止していました。
ミノカサゴの仲間は、長い胸ビレを扇のように広げて、ゆっくり漂うように泳ぎます。動きが遅く、こちらから近づいても逃げないので、水中写真の被写体としては非常にありがたい存在です。ただしヒレの棘には毒があるので、絶対に触らないこと。眺めるだけにしてください。
三浦の海では夏から秋にかけてよく見かけます。緑がかった水を背景に、白とピンクのヒレが浮かび上がる絵は、透明度6mの日でもしっかり撮れました。

岩の上を赤い脚でせっせと歩いていたのはヤドカリ。貝殻の表面が海藻や小さな付着物にびっしり覆われていて、まるで庭を背負って歩いているようでした。今日のリピーターさんも、ヤドカリの前でしっかり時間を使っていました。

ハタタテダイの仲間の群れ
白と黒の縞、そして背ビレから伸びる長い糸。それが砂地の上を、10匹近い群れになって漂っていました。
夏の三浦の海には、黒潮に乗って南から流れてきた南方系の魚たちが姿を見せます。この群れもそのひとつでしょう。関東の海で、こういう熱帯魚らしい魚が群れているのを見ると、夏だなと実感します。ただ、彼らの多くは冬の低水温を越せません。いま見られているのは、この夏かぎりの光景だということです。

砂地では、体の輪郭が砂と同化した平べったい魚が休んでいて、イソギンチャクの触手の奥には体が透き通った小さなエビが隠れていました。今日は名前を突き止めるより、その隠れ方の上手さを二人で眺めていました。図鑑をめくって答え合わせをするまでが、その日の潜りです。
生物観察の質を決める浮力コントロール
今日の2本を振り返って、あらためて思ったことがあります。生物観察の質は、浮力コントロールで決まる、ということです。
砂を巻き上げれば視界が消えます。手を着けば岩の上の生き物を潰します。前後に流されていれば、被写体との距離が定まらずピントも合いません。逆に、呼吸だけで止まっていられるダイバーは、生き物のすぐそばに、静かにいられる。それだけで見えるものが増えます。
これは才能ではなく、ほぼ経験の量です。今日のリピーターさんも、最初から止まれたわけではありません。月1回のペースで50本を積み重ねた結果として、いまの安定があります。
もしいま「なかなか浮力が安定しない」と感じているなら、それはごく普通のことです。ウエイト量の見直しと、呼吸で浮き沈みを作る練習を、少人数のファンダイビングで繰り返すのがいちばん近道だと思います。三浦の海はビーチからエントリーできるポイントが多く、浅場でじっくり練習するのに向いています。

8月後半、水温が高いまま透明度が上がる時季
8月も後半に入りました。ここから秋にかけての三浦の海は、水温が高いまま透明度が上がってくる時季です。個人的には1年でいちばん好きなシーズンで、南から来た魚たちがまだ残っているうちに、水がすっきり澄んでくる。今日のような日を経て、これからもっと良くなっていきます。
アオリイカの卵は、これから水温が高いうちに孵化していきます。同じポイントに何度も通う意味を、あらためて感じた2本でした。