適正ウェイトの決め方|三浦・城ヶ島でエンリッチドエア3ダイビング
こんにちは、三浦 海の学校の吉田です。
9月2日、神奈川県三浦市の城ヶ島でダイビングをしてきました。
ご一緒したのはリピーターのIさん、お一人で3ダイブです。リクエストは、適正ウェイトが知りたい、浮力コントロールの練習がしたい、ついでに写真も撮りたい、の3つ。タンクにはエンリッチドエア(ナイトロックス)を入れました。
この3つには順番があります。 僕が最初に手をつけたのは、ウェイトでした。

9月2日の城ヶ島——水温24度、透明度3〜4mの三浦の海
この日の水温は24度、透明度は3〜4mでした。8月末には水温23度の日もありましたから、水はむしろ少し上がっています。
透明度は正直に書きます。3〜4mは良くも悪くもない普通の日で、少し離れるとバディの姿がぼんやりします。三浦の透明度は風向きと潮と直前の雨でころころ変わるので、僕は予約前に聞かれても「その日にならないと分かりません」 としかお答えできません。
ただ、遠くが見えないことは、そのまま近くを見る理由になります。実際この日は小さい生き物がよく見つかりました。エントリーはテトラポッドのある入水口から歩いて入るショアエントリー。少し進むと砂地が広がり、ゴロタと海藻の茂った根が点々とある地形です。

浮力コントロールの練習より先に、ウェイトです|三浦のダイビングの順番
浮力コントロールは、BCDで大きなズレを消して、呼吸で細かく合わせる二段構えの技術です。細かい調整を担当しているのは肺のほうで、BCDではありません。
ところが、無理なく吸って吐いて動かせる空気はおおよそ1.5〜2.5リットル。呼吸で作れる浮力は2kg前後しかありません。ウェイトが2kg、3kgずれていると、そのズレだけで可動域を使い切ってしまう。呼吸で高さを合わせるという技術が、物理的に使えない状態です。下手なのではなく、道具のほうが動かないだけ。
音程の狂ったギターで運指を練習しても、いい演奏にはなりませんよね。 練習の前に、まずチューニング。ウェイト合わせは、ダイビングのチューニングです。
適正ウェイトの決め方——ダイビングの「終わりの状態」で合わせる
適正ウェイトは「沈められるいちばん軽い重さ」 ではありません。ダイビングの終わり、タンクが空に近い状態で、BCDに空気を入れずに5mの安全停止を保てる最小限のウェイトです。「保てる」 が先で、「最小限」は後。この順番が肝心です。
終わりで合わせるのは、タンクの中の空気にも重さがあるからです。10Lタンクに200気圧なら中身はおよそ2.5kg(容量と充填圧で変わります)。残圧50で上がってくるなら、1本のうちに体は2kgくらい軽くなる。そのいちばん軽くなったところで待っているのが、5mの安全停止です。安全停止で浮いてしまうのは腕が悪いからではなく、そこがその日いちばん体の軽い場所だからです。
チェックは足の着かない深さで、当日と同じ装備のまま。BCDの空気を完全に抜き(インフレーターを高く上げ、体を傾けて肩や背中に残った空気も逃がします。ここが甘いと全部ずれます)、レギュレーターをくわえたまま普通に息を吸って止め、手足を動かさず5秒から10秒待つ。水面が目の高さにくれば適正、息を吐いてゆっくり沈み始めれば合っています。
あとは1本ごとに1kgずつ。 まとめて2kg、3kg動かさないこと。行き過ぎたときに原因が分からなくなりますし、軽すぎる側に振れるほうが危険だからです。上がったら「このスーツとこのタンクなら何kg」 とログブックへ。覚えるのは数字ではなくセットです。
ウェイトが重すぎるとき、海の中で何が起きているか
重すぎることの問題は沈むことではなく、余分な鉛をBCDの空気で打ち消した瞬間から始まります。背中に、深さで大きさの変わる風船を背負うことになるからです。しかも鉛は腰まわりで下、空気は背中と肩で上。上を浮かせて下を引くので体が回り、足が下がって頭が上がる立ち泳ぎの姿勢になります。そこで手をかいて高さを保つ動きが、その状況では実際に効いてしまう。効くから繰り返し、繰り返すから身につきます。あとでウェイトを合わせると、今度はその癖のせいで浮いてしまう。
逆に軽すぎれば、終盤にさらに軽くなって5mに留まれません。重すぎるダイビングは疲れる、軽すぎるダイビングは止まれない。 危ないのは後者です。
エンリッチドエア(ナイトロックス)とは|三浦のダイビングで使えるガスの話
先に、混同しやすいところを片づけます。エンリッチドエアにしても、ウェイトは変わりません。ガスの重さの差はタンク1本でせいぜい30〜50グラム、いちばん小さい0.5kgのウェイトのさらに10分の1以下です。
ただし但し書きがひとつ。エンリッチドエア用にいつもと違うタンクを渡されることがあり、スチールかアルミか、10Lか12Lかで、タンクそのものの浮力は変わります。「今日はなんだか浮くな」と感じたら、変わったのはガスではなくタンクのほうかもしれません。
さて、エンリッチドエアとは何か。タンクに入っているのは酸素ボンベではなく、普通の空気を圧縮したものです。空気は酸素21パーセントで、残りのほとんどが窒素。これを組み替えて酸素を増やし、その分だけ窒素を減らしたガスがエンリッチドエアです。よく使うのは32や36パーセント、上限は40パーセントまで。説明するとき僕が気をつけているのは、「酸素を足したガス」 ではなく「窒素を減らしたガス」と言うことです。
減圧症は、体に溶けた窒素が浮上時に気泡になることが原因とされています。窒素が減れば、同じ深さ同じ時間なら体に溶ける窒素も少なくて済み、無減圧限界が延びる。 変わるのは、この一点だけです。逆に、深く潜れるガスではありません。酸素は濃さと深さの掛け算で効くので、ガスごとに行ける最大水深が決まります。 32パーセントなら約33.7m。空気の40mより手前で頭打ちです。
城ヶ島のような浅い海で、エンリッチドエアはどこに効くのか
正直に書きます。城ヶ島のビーチのような浅いポイントでは、空気でも無減圧限界に当たるずっと手前でタンクの空気がなくなります。 ですから「1本が長く潜れる」ということは、ここでは起きません(無減圧限界の実際の時間はお使いのダイブコンピューターと設定で変わります。 必ずご自身の機材の表示に従ってください)。
変わるのは、1日が終わったときに体に残っている窒素の量です。空気換算深度——窒素の入り方が空気なら何m相当かという考え方——で計算すると、たとえば水深10mを32パーセントで潜るのは、体にとって7mちょっとを潜るのと同じことになります。それが3本続くので、持ち越す窒素が減って3本目の余白が広くなる。逆に1日1本だけ浅場を40分、という日には正直あまり意味がありません。 追加料金に見合わないと思います。
エンリッチドエアで疲れにくくなる? ダイビングの通説を正直に書きます
「エンリッチドエアにしたら3本目が楽だった」 という声は、実際によく聞きます。ただ、それがガスのおかげなのか、その日の水温や睡眠や動き方のおかげなのかは切り分けようがありません。空気と比較した研究でも、疲労感にはっきりした差は確認されていない。指導団体の教材でも、証明されたメリットとしては扱われていないのが実情です。
ですので当店では「疲れにくくなりますよ」 とはお約束しません。お伝えできるのは、窒素の取り込みが減るという計算できるほうの事実だけです。 空気の消費量も変わりません。呼吸の量は同じですから。
エンリッチドエアのタンク料金と、必要なライセンス
エンリッチドエアは、Cカードがあれば誰でも使えるガスではありません。指導団体のルールとお店の運用として、有資格者にだけお出ししています。講習で習うのは潜り方ではなく、ガスの管理の仕方です。中身を自分の手で酸素アナライザーにかけて濃度を測り、その値から最大水深を出し、ダイブコンピューターの酸素濃度の設定を実際のガスに合わせる。32パーセントにしたまま空気のタンクを背負うと、実際より長い無減圧限界が表示されてしまいます。 設定するのは機械ではなく人です。
当店では城ヶ島で開催するビーチ・ボートのダイビングで、エンリッチドエア・ダイバーSPなどの有資格者にタンクをご用意しています。料金は通常のダイビング料金に1本あたり1,500円(税込)。 ご予約のときに「エンリッチ希望」とお伝えください。これから資格を取る方にはエンリッチドエア・ダイバーSP講習があり、学科講習のみで23,650円、海洋2ダイブ付きで45,100円(税込)です。
透明度3〜4mの三浦の海で出会った生き物たち
ウェイトが決まって姿勢が落ち着くと、写真が変わります。被写体との距離を自分で決められるようになるからです。Iさんはリングライトを付けたカメラで、根のまわりを行き来するハタタテダイの仲間を追っていました。黒潮に乗ってくる季節来遊魚で、三浦の海がいちばん南国らしくなるのがこの時期です。

そしてこの日いちばん賑やかだったのは、小さいものたちでした。
アオウミウシ
青い体に白い縁取りとライン、触角と鰓だけが橙色。三浦のウミウシでいちばん見かける顔かもしれません。カイメンを食べるので、岩やゴロタの側面をゆっくり探すと見つかります。動きが遅いぶん、寄る時間をたっぷりくれる被写体です。

コモンウミウシ
白い地に黄色の斑点、外套膜の縁と触角・鰓が紫。白っぽいものを見つけたら縁の色を確かめてみてください。光を正面から当てすぎないほうが、紫を潰さずにきれいに写ります。

ユビノウハナガサウミウシ
半透明の白い体に、枝分かれした鰓の突起がびっしり。 名前のとおり花笠のような姿です。背景が明るいと溶けてしまうので、ライトを横から回すと突起の質感が出ます。

ホソテンロクケボリ
ヤギ(ソフトコーラルの一種)の枝に付く、1cmに満たない巻貝。 この日は2個体並んでいました。豹柄のような模様に見えるのは貝殻ではなく、殻を包み込むように広げた外套膜のほうです。ヤギを見つけたら枝を目でたどると出会えます。

ホタテウミヘビ
砂地から頭だけを出しています。名前にウミヘビと付きますが爬虫類ではなく、ウナギやアナゴに近い魚の仲間で毒もありません。 頭に散った黒い斑点が目印。近づきすぎると引っ込むので、寄る前にピントと露出を決めておくのがコツです。

ダイナンウミヘビ
こちらも砂から顔だけを出す魚で、ホタテウミヘビより頭が細く尖っています。 この日は本当に頭の先だけ。砂の上の小さな突起を意識して流していると、突然目が合います。

ヤドカリの仲間
砂地でゆっくり動くものがいたら、たいていヤドカリです。背負った貝殻が海藻や石灰藻に覆われて、小さな庭のようになっていました。

三浦の海で見られる生き物は海の生き物図鑑にまとめています。
三浦でのファンダイビングと料金
ファンダイビングは2ビーチ13,200円、3ビーチ18,700円、2ボート19,800円、3ボート28,600円。レンタル器材フルセットは1日5,500円です(いずれも税込)。エンリッチドエアのタンクは、これに1本あたり1,500円が加わります。
8月から始めた「つづける割」 もあります。潜った当日に次回の日程を決めると、次回が800円引き(ビーチ13,200円→12,400円、ボート19,800円→19,000円)。対象はファンダイビング全コース、日程変更は空きがあれば無料、バディ割との併用もできます。間隔が空くと、ウェイトも呼吸も一度リセットされてしまうからです。
まとめ|適正ウェイトは、海での最後の5分を自分の意思で過ごすための数字
浮力コントロールの練習がしたい、というリクエストにまずウェイトから入ったのは、そこが技術ではなく設定の問題だからです。測れるものを先に測って固定し、残った揺れだけを技術として扱う。3本潜れる日は、その答え合わせが3回できるということでもあります。
適正ウェイトは、上手さを競うための数字ではありません。最後の5分を、自分の意思で過ごすための数字です。エンリッチドエアのほうは、深く潜るためでも疲れを取るためでもなく、3本潜る日に体へ残る窒素を減らして余白を作るための選択肢。 どちらも派手ではありませんが、効きます。
9月の三浦は水温がまだ高いまま、海の混み合いだけが引いていく時季です。 Iさん、いつもありがとうございます。
また潜りましょう。
三浦 海の学校について
三浦 海の学校は神奈川県三浦市のPADI公認5スターIDCセンターです。ダイビングライセンスの取得から、ファンダイビング、SUPやスノーケリングなどのマリンアクティビティまで、初心者からベテランまで楽しめます。 開催は城ヶ島・宮川湾。京急三崎口駅から開催地まで無料送迎をご利用いただけます。
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